以下は、辻信一(元 明治学院大学教授 専門は文化人類学)著『スロー・イズ・ビューティフル』(平凡社 2001)からの引用です。実は、辻先生が熊本に来られた時に、この本にサインを頂いておりました。
多田道太郎は、今から30年前の日本でこう嘆いていた。世の中には勤勉の思想ばかりがはびこって、なぜ怠惰のイデオロギーがないのか。経済学ばかりが流行って、なぜ怠惰学がないのか。
中略
しかし、多田によれば、日本における勤勉思想の根はそれほど深くない。徳川時代の二宮尊徳をはじめとした日本の勤勉道徳は権力者によって上から押し付けられた比較的新しい、一時的な思想にすぎない。怠惰の思想こそが昔から民衆のうえで育まれ永遠と伝えられてきたものだ。懸命に働くことが理想なのではなく、働かないことこそがユートピアだという考え方が「物くさ太郎」や「三年寝太郎」を生み、育てたのだろう、と多田は考える。
多田は「怠惰の思想」の中で、こんな江戸の小ばなしを紹介している。
年寄「いい若者がなんだ。起きて働いたらどうだ」
若者「働くとどうなるんですか」
年寄「働けばお金がもらえる」
若者「お金がもらえるとどうなるんですか」
年寄「金持ちになれるじゃないですか」
若者「金持ちになるとどうなるんですか」
年寄「金持ちになれば、寝て暮らせるじゃないか」
若者「はあ、もう寝て暮らしています」
引用終わり
この最後の対話の部分は、このブログの初めの頃の投稿記事の「エリートビジネスマンの目指す先」の話と実質は同じですね。
ここで紹介されている多田道太郎(1924-2007)はフランス文学者・評論家で生前は京都大学教授